本記事のデータは、2026年4月21日時点でDNSJPが保有するデータベース内の.jpドメインに対しDNSスキャンを実行し、AレコードまたはAAAAレコードを取得できた206,243件を対象にしています。.jpドメインの完全な全数調査ではなく、DNSJPの収集範囲内での計測値です。
IPv6対応率は7.3%
総務省の「インターネットにおけるトラフィックの集計」では、ISP側のIPv6対応率は2024年末時点で80%を超えていた。ところが、受け手のコンテンツ側、特に.jpドメインのウェブサイトがAAAAレコードを持っているかを調べると、景色がまったく違う。
Aレコード(IPv4アドレス)を返すドメインは188,301件。AAAAレコード(IPv6アドレス)を返すドメインは15,008件。Aを持つドメインのうちAAAAまで設定しているのは7.3%にとどまる。
回線は揃った。サーバー側が追いついていない。
デュアルスタックがほぼ唯一の運用形態
AAAAを持つ15,008件のうち、14,944件(99.6%)はAレコードも同時に持っている。つまりIPv6対応済みドメインのほぼ全てがデュアルスタック構成だ。AAAAだけを返し、Aを返さない「IPv6-only」のドメインは全体で64件しかない。
AAAA-only 64件は「IPv4を完全に捨てた」ドメインの数だが、この中にはDNSキャッシュの残り滓や設定ミスで一時的にAだけが消えている個体も混ざっている可能性が高い。実務的に見れば、.jpドメインでv6オンリー運用に踏み切った事例は実質的に存在しないと考えていい。
この数字は、IPv6の拡大に関わる話題でよく誤解される点を示している。IPv6は「IPv4の代替」ではなく、当面は「IPv4に加える追加の玄関口」として運用されている。v4を残したままv6を足すのは安全策で、技術的にも運用的にも妥当だ。ただし、v6の恩恵(IPアドレス枯渇の解消、NAT迂回、Happy Eyeballsによる接続最適化)を完全に受けるには、まずAAAAを追加すること自体が必要な第一歩になる。
属性型.jpで5倍以上の差がついている
.jpドメインを属性型(第二レベルで用途が固定されているドメイン)と汎用.jpに分けて対応率を見ると、属性型によって大きな差があることが分かる。
| 属性型 | 性質 | Aあり | AAAAあり | IPv6対応率 |
|---|---|---|---|---|
| ed.jp | 小中高・幼稚園 | 1,863 | 421 | 22.4% |
| ad.jp | JPNIC会員 | 551 | 111 | 20.1% |
| go.jp | 政府機関 | 1,339 | 202 | 15.1% |
| 汎用.jp | 誰でも登録可 | 92,982 | 8,373 | 9.0% |
| ne.jp | ネットワークサービス | 5,051 | 421 | 8.3% |
| gr.jp | 任意団体・グループ | 1,623 | 129 | 7.9% |
| co.jp | 株式会社・有限会社等 | 48,631 | 3,280 | 6.7% |
| lg.jp | 地方自治体 | 1,216 | 64 | 5.3% |
| ac.jp | 大学・学術機関 | 6,138 | 293 | 4.8% |
| or.jp | 非営利・社団法人等 | 9,466 | 397 | 4.2% |
最上位はed.jp(22.4%)。学校関係のドメインがIPv6対応トップというのは、多くの人が直感と反対の結果に感じるだろう。背景にあるのはGIGAスクール構想だ。文部科学省が主導する学校ネットワーク整備で、一人一台端末に対応するために校内LANが刷新され、IPv6ネイティブ対応のファイアウォール・UTMが導入された。それに合わせてサーバー側もAAAAを出すようになった、という流れが見える。
2位のad.jp(20.1%)は意外性がない。ad.jpの登録資格はJPNIC会員、つまりISP・IXP・レジストラなどネットワークインフラ運用のプロだ。自分たちで運用しているサーバーでv6対応していないわけにはいかない。むしろ20%しかないのかと不思議に思うくらいだが、これには休眠ドメインや転送のみのドメインも含まれているので実態はもう少し高いはずだ。
3位のgo.jp(15.1%)は、政府情報システムの標準ガイドラインでIPv6対応が明記されていることが効いている。特に2020年以降の新規システムでは原則デュアルスタックが要件だ。
co.jp 6.7%が示している構造
一番気になるのはco.jpの数字だ。
.jpで最もドメイン数が多い属性型(79,499件、解決済み56,231件)で、日本のビジネスドメインの代表格。そのIPv6対応率が6.7%。全体平均(7.3%)よりも低い。
co.jpが低い原因は、ほぼ100%ホスティング側の問題だ。自社でインフラを持っている大企業は.co.jpでもAAAAを出しているが、全48,631件の大多数は共有レンタルサーバーか法人向けクラウドでホスティングされている。このレイヤーでIPv6対応が進んでいない。
DNSJPのデータから.co.jpドメインの主要ホスティング先を見ると、エックスサーバービジネス、さくらのレンタルサーバ、GMOクラウド系、お名前.comレンタルサーバーが上位を占める。これらのサービスの多くは、IPv6対応プランが追加オプション扱いで、デフォルトはIPv4のみだ。ユーザーが積極的にオプションを選ばない限り、AAAAは出ない。
co.jpをCloudflare・Fastly・Akamaiなどのv6対応CDNに載せれば、オリジンがIPv4のみでもフロントではAAAAが返る。実装コストほぼゼロでv6対応と言える状態が作れるが、CDN導入率自体が低いドメインが多数残っている。
or.jp・ac.jpが最下位層にいる理由
or.jp(4.2%)、ac.jp(4.8%)が下位2つ。対応率だけ見るとad.jp・go.jpの1/4以下だ。
or.jpは社団法人・NPO・学会などが主。予算規模が小さく、ホスティングも長年同じサービスを使い続けているパターンが多い。ドメインを数十年前から持っている組織が、当時のレンタルサーバーをそのまま使っていれば、IPv6対応は進まない。
ac.jpが意外に低いのは、大学のITシステム特有の事情がある。学内のネットワークはIPv6対応が進んでいるが、公開サイトは学内データセンターで動いていて、外向けのセグメントにv6が切られていないケースが残る。学内向けサービス(Moodle、ポータル等)のサブドメインはAAAAを持っていても、apex(大学代表サイト)はv4のみ、というのはよく見るパターンだ。
lg.jp(5.3%)の地方自治体も似た構造で、総務省のIPv6対応指針はあるものの、自治体サイトは長期契約のホスティング業者が運用していて、契約更新タイミングでしか構成が変わらない。
この調査から読み取れること
1. ISPの対応率とコンテンツの対応率が桁違いに離れている
日本のISPのIPv6対応率80%超は事実だ。ただ、それはあくまで「エンドユーザーにv6アドレスを配る」側の話で、「v6で届ける先があるか」とは別問題。今回の7.3%は、ドメイン所有者がAAAAをDNSに登録しているかどうかの数字で、これはホスティング事業者と契約者の両方が動かないと上がらない。回線とコンテンツの非対称は、ここ数年大きく改善していない。
2. 業種特性よりも「誰が運用しているか」が決める
ed.jpが1位、ac.jpが下位というのは、「学校 vs 大学」のような業種対立ではない。ed.jpは文部科学省主導で一斉にネットワーク刷新が入った結果、ac.jpは各大学個別のIT運用に任せられていて刷新タイミングが揃わない。結局のところ、誰がホスティング環境を選んでいるか、いつ最後に更新したかで決まる。属性型ドメイン単位で傾向が出るのは、中の人の運用パターンが属性型ごとに似通っているからだ。
3. 「v6対応したい」なら今はCDN経由が最短ルート
自社サーバーにAAAAを出すには、サーバーのv6ネイティブ対応、回線・ルーター・ファイアウォールの確認、DNSの追加、監視設定の拡張と、作業が積もる。一方でCloudflareやFastlyの前段を噛ませれば、オリジンがv4のままでも、エンドユーザーからはAAAAが返るドメインになる。この方式は「本当のv6対応」ではないという議論はあるが、Happy Eyeballsの恩恵(v4/v6のうち速い方で接続)は受けられるし、v6オンリーのクライアントからアクセス可能になる。実利面では十分意味がある。
DNSJPの診断データでは、IPv6対応はSEOの直接的な加点要素ではないものの、「AIO/LLM診断」ではウェブサイトの技術的成熟度を示す指標の一つとして扱っている。AAAAがあると「このドメインは最近設計されたか、運用者が現役」という信号として機能する。
よくある質問
- .jpドメインのIPv6対応率はどのくらいですか?
- 2026年4月21日時点のDNSJP調査では、名前解決できた.jpドメイン206,243件のうちAAAAレコードを持つのは15,008件(7.3%)です。AとAAAAを両方持つデュアルスタックが14,944件、AAAA-only(v6のみ)は64件でした。
- 属性型.jpで一番IPv6対応が進んでいるのはどこですか?
- ed.jp(小中高等学校)が22.4%で最も高く、次いでad.jp(JPNIC会員)20.1%、go.jp(政府機関)15.1%です。co.jp(一般企業)は6.7%で平均よりやや低く、or.jp(非営利団体)は4.2%で最下位でした。
- なぜAAAA-onlyのドメインが64件しかないのですか?
- Aを持たずAAAAのみだとIPv4のみのクライアントから接続できません。日本のモバイル・家庭回線はIPv4/IPv6デュアルスタック、またはIPv4 over IPv6(MAP-E等)が主流で、「v4を完全に捨てる」選択肢はまだ現実的ではないため、AAAA-onlyはほとんど存在しません。
- co.jpのIPv6対応が6.7%と低いのはなぜですか?
- co.jpの多くは共有レンタルサーバーや法人向けクラウドでホスティングされており、これらのサービスがAAAAをデフォルトで発行していないことが主因と考えられます。IPv6対応のCDN(Cloudflare等)に乗せればフロントではv6対応になりますが、CDN導入自体が進んでいません。
- 自分のドメインのIPv6対応を確認するには?
- DNSJPのDNSルックアップツール(/dns)でAAAAを指定して検索すれば、IPv6アドレスが返ってくるか即座に確認できます。AAAAが返らない場合、そのドメインはIPv4のみで運用されています。
調査方法
- 調査日: 2026年4月21日
- 対象: DNSJPが保有する.jpドメインデータベースから、AレコードまたはAAAAレコードを取得できた206,243件
- 方法: 各ドメインのA/AAAAレコードをDNSスキャンし、レコードの有無で対応率を判定。属性型は
co.jp、ne.jpなど第二レベルの形式で分類(例:example.co.jp→ co.jp、example.jp→ 汎用.jp) - ツール: zdnsによるバルクDNSスキャン
- 制限: レコードの有無のみを確認しており、AAAAレコードが実際に到達可能か(TCP接続が成立するか)まではチェックしていない。AAAAレコードが設定されていてもサーバー側でv6待ち受けを止めているケースは「対応」として計上される。また、.jpドメインの完全な全数調査ではなく、DNSJPの収集範囲内のデータに基づく