本記事のデータは、2026年4月17日時点でDNSJPが保有するデータベース内の.jpドメインを対象にDNSスキャンした結果です。.jpドメインの完全な全数調査ではなく、DNSJPの収集範囲内での計測値である点にご留意ください。

SPF導入率34.1%

34.1%
.jpドメインのSPF導入率
メール利用121,772件中 41,520件が設定済み

SPF(Sender Policy Framework)は、ドメインの所有者が「うちのメールはこのサーバーから送る」とDNSで宣言する仕組みだ。受信側はこれを見て、宣言されていないサーバーからのメールを疑わしいと判断できる。メール認証の基本中の基本で、DMARCやDKIMと比べても設定のハードルは一番低い。

それでも、.jpドメインの65.9%はSPFを設定していない

前回のDMARC調査で導入率の概要は出したが、今回はSPFレコードの「中身」に踏み込む。includeに何が書かれているか、MXレコード(実際のメール受信先)と整合しているか、DNS lookup数は大丈夫か。レコードがあるだけでは意味がない部分を掘り下げた。

SPFレコードの中身 -- includeで見るメールサービス分布

SPFレコードのinclude:メカニズムには、そのドメインがメール送信に使っているサービスの名前が入る。ここを読めば、.jpドメインがどのメールサービスに依存しているかが見える。

41,520件のSPFレコードから、主要サービスのincludeパターンを抽出した。

サービス SPF include件数 SPF内シェア includeパターン例
Google Workspace 5,475 13.2% include:_spf.google.com
Microsoft 365 4,519 10.9% include:spf.protection.outlook.com
Xserver 3,229 7.8% include:spf.xserver.jp
Amazon SES 1,113 2.7% include:amazonses.com
Lolipop! 736 1.8% include:_spf.lolipop.jp
さくらインターネット 204 0.5% include:_spf.sakura.ne.jp
Salesforce 192 0.5% include:_spf.salesforce.com
SendGrid 171 0.4% include:sendgrid.net
Zendesk 95 0.2% include:mail.zendesk.com
Mailchimp 34 0.1% include:servers.mcsv.net

Google WorkspaceとMicrosoft 365が上位を占めるのは予想通りだが、3位にXserverが入っているのが日本市場の特徴だ。Xserverは共有ホスティングのデフォルト設定でSPFレコードを自動生成するため、ユーザーが意識しなくてもSPFに含まれる。

ただし、ここに名前が出ていないサービスが多数ある。41,520件のSPFレコードのうち、上位10サービスのincludeにマッチしたのは計15,773件(38.0%)。残り62%は独自サーバーのIP直指定、国内ISPのinclude、あるいはincludeなしの最小構成だ。

MXはGoogleなのにSPFにGoogleがない問題

ここからが今回の調査で一番気になった点だ。

MXレコード(メール受信先)の分析では、.jpドメインのメールサービス利用状況はこうなっている。

Google Workspace
MX利用49,220件
SPF include5,475件
11.1%
SPFにGoogleを含めている割合
Microsoft 365
MX利用6,216件
SPF include4,519件
72.7%
SPFにM365を含めている割合

Google Workspaceをメール受信に使っている.jpドメインは49,220件。ところが、そのうちSPFレコードにinclude:_spf.google.comを設定しているのは5,475件。88.9%のドメインは、Googleでメールを受けているのにSPFにGoogleを含めていない。

これは「SPFレコードが存在しない」ケースと「SPFレコードはあるが、Googleのincludeが抜けている」ケースの両方を含む。いずれにしても、Google Workspace経由で送信したメールがSPF認証を通過できないリスクがある。

一方、Microsoft 365は72.7%。Google Workspaceとの差は歴然だ。

この差が生まれる理由として考えられるのは、セットアップフローの違いだ。Microsoft 365はドメイン追加時にDNSレコードの設定を強く誘導する。管理コンソールにSPF/DKIM/DMARCの推奨レコードが表示され、設定が完了するまで警告が出続ける。対してGoogle Workspaceは、MXレコードの設定は管理コンソールでガイドされるものの、SPFはDNSホスティング側で手動追加する必要があり、ステップが分離している。

もう一つの要因は、国内ホスティング事業者のデフォルト設定だ。XserverやLolipop!はメールサーバーのSPFレコードを自動で設定するが、そこにはGoogleのincludeは含まれない。ユーザーがGoogle Workspaceに移行してMXだけ変更し、SPFを更新し忘れるパターンが多いのだろう。

~allが79% -- SPFの「本気度」

SPFレコード末尾のallメカニズムは、リストにないサーバーからのメールをどう扱うかを決める。

~all 79.0%
-all 19.3%
32,814
~all softfail
8,028
-all hardfail
678
その他(?all/+all/構文エラー)

~all(softfail)は「リスト外のサーバーからのメールは疑わしい」という意味。-all(hardfail)は「拒否してください」という明確な意思表示。現実的には~allでもDMARCと組み合わせればenforcement可能なので、~all自体が悪いわけではない。

問題は、~allのドメインの大半がDMARCを設定していないことだ。DMARC調査で示した通り、DMARC導入率は17.5%。つまりSPFを~allで設定しているドメインの大部分は、SPFもDMARCも中途半端な状態にある。受信サーバーの「お気持ち」にメール配信の可否を委ねている格好だ。

?all(neutral)が312件、+all(pass all)が2件。+allは「全サーバーからの送信を許可する」という意味で、SPFとして完全に無意味。設定ミス以外の理由が思いつかない。

DNS lookup制限に引っかかりそうなドメイン

RFC 7208はSPFレコードの評価時にDNS lookupを最大10回と定めている。include:redirect=a:mx:がそれぞれ1回のlookupを消費し、includeの先にさらにincludeがあればネストされた分も加算される。10回を超えるとpermerror(永続エラー)となり、SPF認証自体が失敗する。

1,892件
5つ以上のincludeを含むSPFレコード
SPF設定済み41,520件の4.6%

5つ以上のincludeを持つSPFレコードが1,892件(4.6%)。include先のネストを考慮すると、このうち相当数が10回上限に達しているか、ギリギリのラインだろう。

典型的なパターンは、ホスティング事業者のデフォルトSPF + Google Workspace + メール配信サービス(SendGridやMailchimp) + CRM(Salesforce) + サポートツール(Zendesk)のように、サービスを追加するたびにincludeが増えていくケースだ。各サービスのinclude先がさらに2-3回のlookupを消費するので、見た目4つのincludeでも実質8-10回に達することがある。

lookup数を減らすには、include:をIP直指定(ip4:/ip6:)に置き換えるか、SPF flattening(ネストされたincludeを展開して1レベルにまとめる)が有効。ただし、参照先のIPが変わると手動更新が必要になるため、SPF管理サービスの利用も検討に値する。

この調査から見えること

1. SPFは「入れた」だけでは機能しない

SPFレコードの存在だけで安心している管理者は多い。しかし、Google Workspaceの例が示すように、MXを変更してもSPFを更新しなければ、正規のメールがSPF認証に失敗する。SPFは設定して終わりではなく、メール基盤の変更に合わせてメンテナンスが必要な生き物だ。

2. ホスティング事業者のデフォルト設定に頼りすぎている

Xserver(3,229件)やLolipop!(736件)のinclude数は、デフォルト設定がそのまま使われているケースを多く含んでいるはずだ。デフォルトSPFがある安心感が、逆に「自分で設定する」意識を薄めている面がある。特に外部メールサービスに移行した後が危ない。

3. DMARCなしの~allは、ほぼ意味がない

SPFの~allは「softfail = 疑わしいけど受け取ってもいいよ」という曖昧なシグナルだ。DMARCのenforcement(quarantine/reject)と組み合わせて初めて、認証失敗メールを確実にブロックできる。SPFだけ入れてDMARCを入れていない約2万件の.jpドメインは、鍵をかけたつもりでドアが開いている状態に近い。

まとめ

SPFは20年以上前に生まれた仕組みで、メール認証の入口としてはもっとも手軽だ。だからこそ「とりあえず入れた」で止まりやすい。レコードの中身を確認し、MXと整合させ、DMARCと組み合わせる。そこまでやって初めてSPFは機能する。

よくある質問

.jpドメインのSPF導入率はどのくらいですか?
2026年4月17日時点のDNSJP調査では、メール利用中の.jpドメイン121,772件のうちSPFレコードを設定しているのは41,520件(34.1%)です。約3分の2のドメインはSPFを設定していません。
SPFの~allと-allはどちらが多いですか?
.jpドメインのSPFレコードの79.0%が~all(softfail)、19.3%が-all(hardfail)です。ホスティング事業者がデフォルトで~allを設定するケースが多いためです。
SPFのincludeで最も多いメールサービスは?
.jpドメインのSPFレコードのincludeではGoogle Workspaceが5,475件で最多です。ただしMX利用は49,220件なので、大多数がSPFを正しく設定できていません。
SPFのDNS lookup上限とは何ですか?
RFC 7208の規定で、SPFレコードの評価時にDNS lookupは最大10回です。include先のネストも加算されるため、includeを多数含むレコードはpermerror(認証失敗)のリスクがあります。
Google WorkspaceのSPF設定漏れが多いのはなぜですか?
Google Workspaceはメール受信(MX)の設定はガイドされますが、SPFのinclude追加はDNS側での手動設定が必要です。ホスティング事業者のデフォルトSPFが残ったまま、Google用のincludeが追加されないケースが多いと考えられます。

調査方法

  • 調査日: 2026年4月17日
  • 対象: DNSJPが保有する.jpドメインデータベースから、MXレコードが存在する(メール利用中の)121,772ドメイン
  • 方法: 各ドメインのDNS TXTレコードをスキャンし、v=spf1で始まるSPFレコードを抽出。includeパターン、allメカニズム、include数を集計
  • MXデータ: 同データベース内の.jpドメインMXレコードをプロバイダー別に分類し、SPF includeとの整合性を分析
  • ツール: zdnsによるバルクDNSスキャン
  • 制限: DNSレコードの有無と内容のみを確認。SPFのネストされたinclude先のDNS lookup数は直接計測していない(include数5以上を「リスクあり」の指標として使用)。.jpドメインの完全な全数調査ではなく、DNSJPの収集範囲内のデータに基づく